伝燈院 赤坂浄苑 副住職 角田賢隆

副住職 角田賢隆

水流元入海 月落不離天

まだまだ暑い日もございますが、朝夕は比較的涼しく過ごしやすい気候となってまいりました。当苑ご関係の皆さま方におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

コロナウィルスはいまだ感染者数が多い状況ですが、大流行となった第七派はピークアウトの兆しを見せております。東京都では感染者の累計が人口の二割を超え、私自身も七月に子供から感染が始まり家族全員が感染し、職員の検査を実施するなど大変でございました。幸い家族も赤坂浄苑内も大事に至らず今は落ち着いており、今を生きていることに感謝いたしております。

お寺で行う法要では式の中で「拈香法語」と言い、お香を焚いて「法語」を唱える一場面がございます。「法語」とは仏教の教えを説いた言葉なのですが、自身で作ることもあれば、お釈迦さまの教えを代々の祖師方がわかりやすく説いたものを引用することもございます。

私が法語としてよくお唱えするもので、次の一文がございます。

水流れて元海(もとかい)に入り 月落ちて天を離れず

これは中国元時代の禅僧が残した言葉で、「海から雲になり、雨となって降った水は川を流れて海に戻り、月は東より昇り西に落ちていくが、必ずまた東から昇り天から離れることはない。」という意味です。ご縁により天から授かった命は、川の流れのように楽しかったり苦しかったり、人により様々な人生でございます。しかしながら、月が落ちてこないのと同じで、いずれ皆さまは緩やかに元の世界へ帰るのです。

また、お葬儀の際に白木のお位牌(本位牌ができるまでの仮のお位牌)を用意いたしますが、戒名の上部に必ず「新帰元」と記します。「新たに元へ帰る」ということで、仏教では仏さまのいる世界を本当の世界と考え、今生きている現世を修行の世界(成仏=悟りのための準備期間)と考えます。

現世は大変な世の中でございます。ですが修行の世界ですから必ず苦しみを伴い避けることはできません。簡単なことではございませんが、前述の禅語を理解いただき、少しでも苦しみを受け入れ、少しでも楽しく生きるすべを考え、今を大切に、前向きに生きていただき、心の安心(悟り)を目指していただければ幸いでございます。

伝燈院 赤坂浄苑 角田賢隆 拝