伝燈院 赤坂浄苑 副住職 角田賢隆

副住職 角田賢隆

貪瞋痴の三毒(とんじんちのさんどく)

日本では小康状態を保っているように見える新型コロナウイルスですが、9月に入った現在でも世界では1日約5000人の死者が出ており、亡くなられた方は合計で100万人に迫る勢いでございます。

皆さまの生活もコロナ以前に比べ本当に大変な世の中となりました。「コロナ鬱」という言葉も出てくるなど、数々の制限をかけられた生活に先の見えない不安から、心のバランスを崩されて精神を病んでおられる方を多くお見受けいたします。

しかしながら、仏教の教えでは実際に自身を苦しめるものを、外からの作用ではなく自身の中に内在する「煩悩」(欲)が原因であると説いております。その「欲」の悪い作用をもたらす代表的なものが「貪瞋痴(とんじんち)」の3つであり、これを「三毒(さんどく)」ともうします。

まず一つ目は「貪(とん)」でございます。これは「貪欲(どんよく)」のことであり執着する心です。

自分だけは感染したくない。健康体に執着する欲望は当然ながら誰しもが持ち合わせているわけですが、世の中は人が互いに支えあっており、他者の健康なしに成り立たないものでございます。他者からの感染を恐れるのではなく、いっそ自分が感染しているかもしれないという意識で生活し、支えてくれる人、大切な人に感染させない。そのような考えで感染予防をしていただければ悪い「貪(とん)」も生じづらくなるのではないでしょうか。

二つ目は「瞋(じん)」といい、これは「瞋恚(しんい)」。怒りの心でございます。

感染者を出した飲食店に罵声を浴びせる事件がありました。店主は感染予防対策をとっておりましたが「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪したそうです。また、感染者を出したご家庭がSNSや張り紙などで誹謗中傷される事件も多くお聞きしました。これはまさしく「瞋(じん)」であり、まったく意味のない怒りでございます。「瞋(じん)」を恐れ感染経路の特定に協力的でない方が多いようです。結局は怒りを発した人にとっても不利益となっています。怒りは何も生みださないのです。

最後の三つ目が「痴(ち)」。これは「愚痴(ぐち)」といい愚かな心のことでございます。

以前に比べコロナ関係の報道は減ったように思えますが、いまだに誤った情報や、真偽が不確かでいたずらに不安をあおるような報道を見かけます。世界では誤った情報により暴動や買い占めも起こっております。誤った情報を鵜呑みにせず、自分にとって世の中にとって何が必要で何が必要ないか、いったん心を落ち着けてよく考える習慣をお持ちください。

自分を苦しめるのは自分の心でございます。コロナは怖いウィルスでございますが、それ以上に怖いのが人間の心でございます。貪瞋痴(とんじんち)の三毒は誰の心にも存在し、混乱や弱さに付け入り暴れだす機会をいつもうかがっております。このような時代であるからこそ自分ひとりの為だけではなく、協力し合って生きる社会全体を考えて心のバランスを整えていただくことも、先祖供養につながる大切な生き方でございます。